<概要>(新築)
場所:東京都目黒区
延べ面積:82.49平米
構造:木造2階建て
造園:荻野寿也景観設計
設計者自邸
見学予約可能事例:予約フォームへ
小さい敷地でもしっかりとした庭を作り、屋内の様々な場所から庭や木が見えるというのがメインコンセプトです。
敷地内の植物以外にも、西向かいの植裁や東のアパート裏のちょっとした植樹帯なども借景として楽しめるように窓の位置を検討しました。
容積率から35坪強まで建築可能な敷地ながら、延床面積で25坪と狭小と言える程ではないものの戸建てとしてはコンパクトな面積に抑え、その分内容を充実させて屋内空間は玄関、トイレなども含め全てを居室としてフル活用するくらいのつもりで設計しました。
家族が集まれる場所としてのリビングや可動式の小上がりがあり、少し距離を取りたいときは踊り場のベンチや玄関のソファをはじめとする各所で読書をしたり植物を眺めたり楽器を演奏したりと思い思いの過ごし方ができるようにしています。
現時点では間仕切りとなる扉はトイレと脱衣室の2箇所しかなく、離れた場所にいてもお互いの気配は感じられる距離感となっています。
小さな面積でも窮屈に感じないように、視線を遠くに飛ばすこと、また、緩い仕切りをところどころに設けることで奥行き感を出すことなどで印象を操作しています。
意匠面では、1階は少し薄暗く落ち着いた雰囲気、2階を明るく暖かい雰囲気として、気分によって居場所を選べるようにしています。
また、左官の天井をきれいに見せたいという思いがあり、極力天井に機器類を設置せず、照明もダウンライトは使わずになるべく天井も照らす計画としています。
性能面では構造は耐震等級3相当の設計をしており制振ユニットも導入、断熱は外断熱でHEAT20のG1基準を満たし(UA値0.54、ηAC値2.7、ηAH値3.2)低炭素建築物の認定を取得しています。
各室説明
外観
通りに面する窓は玄関引き戸を含めて庭、木、周囲の借景への視界を確保する目的で大きさと位置を決めました。
また、通りから見た時に外壁が樹木の背景となるように、2階の壁面は開口を最小限に抑えています。
2階を道路に向かって跳ね出して玄関前のひさしを深く取ることで、雨の日にも濡れずに身支度等ができ、玄関引戸を全開にすると、ポーチを玄関から続く半屋内的な感覚で利用できます。
ポーチの袖壁は玄関引戸が延焼ラインから逃げるための防火壁も兼ねているため、玄関引戸は防火設備とする必要がなく一般的な製作の木製建具としてコストを抑えています。
ポーチに設置した机は帰ってきた時の荷物置き場の他、椅子を持ってきて仕事をしたり本を読んだりといった使い方もできます。
夜にはプリーツスクリーンを閉めることで通りに対する行灯のような柔らかい光を落とします。
玄関
玄関は単に靴を脱ぎ履きする場ではなく、前庭を見たり簡単な接客をしたり、将来的にはピアノを置いてスタジオを含めて音楽スペースなどとしても利用したいと考えました。
玄関ポーチから続く壁は外壁仕上げをそのまま中まで引き込み、軒裏の高さも天井と合わせることで、玄関引戸を開け放した時にポーチまでが一体空間として感じられます。
行き止まりの私道沿いで近隣住民以外はほとんど人通りが無く人目はほとんど気にならないので、リモートワークが多くなった現在ではポーチに設えた机で外の空気を感じながら仕事をしたり、ご近所との井戸端会議をすることもあります。
ペンダントライトは引掛け部分を天井内に隠し、すっきりした印象にしています。
夜は外灯とポーチ灯の明かりがグリッド状のカーテンを通して内部にやや宗教的な模様を作り出します。
広い玄関は何かと便利で、保育園に行く前の歯磨きの場になったりすることもあります。
スタジオ
階段踊場の下を土間レベルからさらに一段掘り込んで天井高さを確保し、庭を見ながら楽器や運動を楽しむスペースとしています。
2階でテレビなどを見ていても空間としてつながっていながら、ぎりぎりお互いの音が干渉せずに許容できる距離感となっています。
玄関収納 / ワークスペース
当初の計画ではこの場所はあくまで玄関収納で、一応パソコンを置いてはあるもののここで長く過ごすつもりはありませんでした。
着工してからコロナ禍でリモートワークが多くなったこともあり、ここで過ごす時間が多くなりそうだということで玄関に向けて小さな開口を設け、仕事中もここから庭や来客の様子などがわかるようにしました。
座ったときの目線の高さで窓も設けてあるので居室としてもそれほど閉塞感はなく、適度に静かで集中するには良い場所となっています。
ワークスペースからの眺めです。庭とポーチの机が見えます。
階段
階段前には外から帰った時とトイレ用を兼ねる手洗いを設けています。
スリット状の窓で目線を切りながら明かりを確保し、釣棚の釣竹に見立てた銅管を蛇口にしています。
階段を1段上がると子供でも手が届く高さとなっていて、帰宅時にスムーズに手洗いができるようにしています。
2階の開放感とのコントラストを強めるために、登り始めは両側の壁を屹立させて谷底のような印象を与えるよう計画しています。
階段板はオークの無垢材で、接合部分はノンスリップ目地に隠して継ぎ目が感じられないソリッドな印象をもたせています。
踊場は玄関とリビングを繋ぐ場所として、本棚と読書スペースとなるベンチを設えています。
ベンチからリビングへの抜け道は本棚の今後への余裕兼子供の遊び用として設けたましたが、リビングにいる人と物を受け渡すのにも重宝します。
また、これは生活を始めてから気づきましたが、2階から1階まで降りずに柵越しに玄関にいる人に物を渡すという利用機会が多いです。
降りる時は少し薄暗い中に降りていくという感じで、静かな空間に向かって気持ちを切り替える装置のような意図してますが、子供には効かないようです。
踊場から上は2階の明るい空間が感じられます。
リビング・ダイニング・小上がり
階段を登ると正面にベンチ越しのルーフデッキがあり、その手前に小さなソファのある小リビングスペースがあります。
デッキがリビングより1段上がることで少しこもった感じが生まれ、ソファをルーフデッキに向けてデッキ前のベンチをオットマンのように使って外を見ながら過ごすこともできます。
ルーフデッキを2階の床より高くすることは階高を抑えることにも繋がり、建物の高さも低くなるためにコストを抑えられたり建築基準法の斜線対策が容易になるという側面もあります。
階段を登って振り返ると、リビングと小上がりの目隠しが見えます。
適度な高さを持った目隠し板が1枚あることで奥行き感が生まれ、階段を含めても15畳程度の空間ながら実面積以上の広がりを感じます。
小リビングの前はダイニングスペースです。
天井の勾配は冬至の頃のトップライトからの太陽光の角度と合わせています。
あまり冬が好きではないので、家にこもっている時にちょっとした楽しみを見つけるための工夫の一つです。
子どもは気ままに好きなところで過ごしますが、窓前のベンチは作業台として使われることが多くなってます。
ソファで読書などする時は西側の大きな壁に守られているような感覚があります。
リビングから1段上がって取外し可能な家具的なつくりの小上がりがあり、ここでゴロゴロしながらテレビを見たり、来客が寝泊まりしたりできます。
トップライトで明るさの確保と熱の排気を行い、壁面に窓を設けないことで落ち着いた空間となっています。
小上がりからもルーフデッキと庭木が見えます。
床柱的なイメージで設置した丸鋼は袖壁の補強が主目的ですが、手はつりの丸柱と対になり垂直方向を強調する役割も担っています。
南側はお隣の家がすぐ近くにあるためにリビングには南に面する窓を設けていませんが、トップライトと東西の窓から一日を通して充分な明るさは確保できています。
西側の窓からは前庭のアオダモ、コハウチワカエデの他に向かいのお宅の植裁も楽しめます。
リビングから見るキッチンとルーフデッキ。
キッチン入口の上のルーバー内にはエアコンと給気口、照明が設置されている。
キッチン
キッチンは天井を低めに抑え、ルーフデッキに面する天井までの窓を設けて視線を外へと誘導しています。
ルーフデッキの壁を高く立ち上げることでお隣の目線を切り、同時に植裁も映えやすく、外の変化を楽しみながら気持ちの良く台所仕事ができます。
竣工時3歳の子供がおり、このくらいの子育て時期に家を建てる方々の多くがリビング全体を見渡せるような対面キッチンを要望されておりましたが、このように台所仕事時は子供は横目で見えるくらいにしておいて外を見てリフレッシュするという選択肢もありかと思います。
窓の高さや天井高さは主にタイルの割付をベースに決めています。
シンクが丸見えにならないように設けた袖壁は角を丸め、少し遊び心を出してふきんなどを掛けられる丸穴を開けています。
キッチンの後ろは家電等の収納と作業場になっていて、もともと持っていた古い作業台を使う前提で設計しています。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
いわゆるキッチンバック収納は設けておらず、食器はキッチン脇のオープン棚によく使うものを入れ、使用頻度の低いものと繊細なものはダイニングのキャビネットに収納、調理器具と食品ストックはシステムキッチンの引き出しに納めています。
キッチン奥は子供室になっています。
子供室
子供室は塗装用クロスを貼り、当面は落書きができる壁となっています。
取外し可能なJパネルからブランコや鉄棒を設置しています。
入り口は将来的に扉が設置できるよう引き戸レールを付けています。
子供室の窓からはバルコニーの花ブロックと奥庭のヤマボウシがよく見えます。
ルーフデッキ
ルーフデッキの南側は壁を立ち上げ、お隣とお互いに気にならないようにしています。
リビングから壁面が連続しているような雰囲気も出るので、上部に渡した桟にすだれなど掛けると半屋内のような風情になります。
ウッドデッキを防水面から30cm弱高く設置しているので、FRP防水をしっかり立ち上げた状態でも水切りが隠れてすっきりとした印象となっています。
東側は賃貸住宅でどのような人が住むかわからないこともあり完全に目隠しをすることで逆に不安になる可能性を考慮し、孔の空いている花ブロックを積み適度な目隠しとしています。
奥庭を見下ろすことができる。
寝室
玄関から見た廊下の奥が寝室となっています。
短いながら廊下を挟むことでプライベートなスペースを分けています。
寝室は24時間換気をしていてもどうしても空気がこもりがちで匂いなどが気になるため、思い切って扉は設けていません。
そのため、洗面脱衣室とスペースをオーバーラップさせることができ、面積の節約になっているのと、家の端から端まで視界が通るために狭さをあまり感じずに済みます。
また、廊下が真っ暗にならないので照明の設置も不要で、細かいコスト削減にもつながっています。
1階全体の床をタイルとしていますが、これは狭い面積で水周りとそれ以外の部屋の床素材を変えない方がスッキリ見えるという意匠性と、蓄熱暖房があるため冬は暖かく夏はひんやりするという実用性が合致したための選択です。
コスト的にもタイル面積がある程度大きいとちょっといいフローリングを張るよりも安くできるというメリットがあります。
寝室は奥庭に面していて、当初は床から天井までの掃き出し窓を設置予定でしたが、防火設備でかつ網なしガラスにしようとした時に高さの制限があり、網を入れて全面開口にするか、上下どちらかに寄せて網なしにするかの選択となりました。
結果的にやはり植裁を見るのに網がない方が良いと判断し、天井に対する光の入り方を優先して天井に寄せて床から立ち上がりをつくりましたが、この立ち上がりが結果的に寝室としての安心感のようなものをもたらしました。
子供が枠に座って本を読んでたりするのでちょっとした実用性もありました。
布団が接する壁面は左官だと布地が痛みやすいため桐ボードとしています。
照明は壁面のブラケット照明一つで、本を読む時以外は問題ない明るさが確保できますが、読書時はスタンドを併用しています。
奥庭は少し和の趣が強いこともあり、ベランダからの排水に鎖樋を用いています。
洗面、浴室、トイレ、クローゼット
トイレには、以前暮らしていたマンションに付いていた手摺が思いのほか重宝していたために手摺兼紙巻器を鋼管で製作しました。
照明は奥の棚に置いたスタンドがセンサーで点灯します。
換気扇は棚の扉の奥に設置してあり、コンセントも便器の後ろに隠し、雑然としたものが見えないために静かな気持ちで籠もれるスペースになっています。
トイレの鍵は表示錠を子供が外から開けることを覚えてしまい一時的なことでしょうが煩わしいことと、一般的な鍵は開いているか閉まっているかが一目でわかりにくいこともあり、閂方式としています。
洗面脱衣室は引き込みの大きな扉で仕切れるようになっています。
洗面台とその前の壁はモルテックス、浴室内の壁は床と同じタイル貼りとしています。
浴室はカーテンの仕切りとしていて、利用時以外はカーテンを開け放すことで広々とした空間となり、湿気がこもりにくいという利点もあります。
天井は全て左官でつなげ、部屋同士の一体感を高めています。
基礎蓄熱暖房があるため浴室暖房乾燥機は設置せず、浴室の換気扇は奥の織り上げ部に設置してスッキリと仕上げています。
浴室や洗面脱衣室からも庭の緑を楽しめます。
寝室の隣はクローゼット兼洗濯室で、この中からも庭が見えるような開口を設けています。
1階のエアコンはここにしか設置しておらず、開口は涼風の吹出口も兼ねています。
隠し事
見えなくて良いものはなるべく隠すことで全体の印象が整然とします。
部分部分は細かいことですが、塵も積もれば山となるように、不便さとのバランスを考えつつ隠せるものは隠しています。
リビングのテレビ上は子供に触られたくないものや雑然とした配線、メディア類を納める棚となっています。
テレビを窓に見立て、庇のようなイメージでつくっていて、テレビの大きさとのバランスを考えて棚に厚みをもたせ、コンセントや給気口などを厚みの中に納めています。
玄関とダイニングの引掛シーリングボディは天井からオフセットさせて接合部が気にならないようにしています。
コンセント、スイッチ、センサー類はなるべく死角になる場所でかつ知っていればそれほど不便ではなく使える場所に設置しています。
あまりプラスチック製品を見たり触ったりしたくないという思いがあり、ドアホンはアルミケースを用いて隠しています。
結果的に本体の寿命も長くなるのではないかと密かに期待しています。
インターホン屋内側は直接玄関に出てしまうのでほとんど利用することがなく、サッシ脇の収納棚の奥に設置して一応ベンチに座ると利用できるようにしています。
ブラインドやサッシの框は基本的には隠していますが、ショールーム的意味合いで比較できるように寝室は露出で設置しています。
換気扇、給気口は多少メンテナンス時の面倒さはありますが、頻度が少ないので極力見えない箇所で設置しています。
小上がりや踊場などにいる時などに、なんとなく気配は感じるが見えないという感覚を重要視して棚や壁の高さを設定しています。
だいぶ長くなりましたが、設計の過程など、さらに細かいことなどはブログ
https://ekip.co.jp/blog/archives/category/myhousedesign
にまとめていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
仕上げ
1階:壁天井 左官(ムラモト ウォーロ)、一部壁と床 タイル(マリスト ワン)、一部壁 桐パネル(ウッドテック)
2階:壁天井 左官(ムラモト ウォーロ)、子供室のみ壁天井 クロス(ナガイ)、キッチン壁 タイル(平田タイル)、床 フローリング(岡崎製材)
設備、照明
衛生機器:TOTO(便器)、ウッドワン(キッチン)、フォンテトレーディング(浴槽、シャワー水栓、手洗器)、Tform(洗面器、混合水栓)
照明機器:FLOS、Louis Poulsen、ひかり、DAIKO、コイズミ、BOCCI
暖房機器:モア(基礎蓄熱暖房)
制振ユニット:神栄(S Plus)